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192

妹兄192
 薄い生地のカーテンがひかれ薄暗くなった部屋、時計は二時半を過ぎ、彼女はソファーに並んで座る紹介された精神科の老医師、最後の説明を受けていた。
「この治療は決してあなたの過去に起きたことを再現できるものではありません、今からやることは、あなたの記憶、夢のようにぼんやりしているものの中から、心に刺さった棘を見つけるための治療です」
「はい…」
 囁くような声は意思のある強い響きで、力を無くした様に横たわったミィナは、すでに催眠状態におちいっていた。
「あなたは私の指示で眠り、私の指示で目覚めます」
「はい…」

 老医師は彼女の瞑った目を開き、ペンライトで瞳孔を照らし状態を再度確認すると、サイトウと問診内容をまとめた幾つかの質問事項が書かれた書類に目を通しながら治療を始め、二十数年前に引き戻されていく彼女は、自分でもはっきりしないその瞬間を垣間見ようとしていた。
《あなたはそれが起こった場所に来ています》
《その場所はどこですか?》
《何をしていますか?》
《気持ちを楽にして、ゆっくりでいいのです。その場に戻りましょうか》
 彼女は確かに睡眠状態に陥っていた。だがその口堅く閉ざされたまま、ただ横たわり眠っているだけ。そして、根気強く同じ質問が繰り返された時、ついに彼女は話し始めた。
《あなたはその時何をしていました?》
「何も…、白いベッド…、寝室で目覚めた…」
《身体的な苦痛や変化はありましたか?》
「うつ伏せに倒れるように寝てる…、何も身につけてない、ハダカ…」
《ベッドで目覚めた後、一番初めに思ったことはなんですか?》
「あぁすごい寝汗をかいてる、凄い衝動に駆られてます…」
《その衝動がどこから来てるのか分かりますか、例えられますか?》
「空腹、孤独、閉塞感、心がからっぽ、欲情してる! たまらないほど求めてる…、熱い! 体がぁあ、ハァハァハァ」
 額から滲む汗を、サイトはぬぐってあげていた。
《そしてどうされましたか?》
「…気づきました、分裂したことに」
《どうして分裂したと分かりましたか?》
「わ分かりません…、でも…、一瞬でそうだと分かりました…」
《そのあと何をしてますか?》
「慌ててます、バッグに私物詰めて外へ…」
《疲れていますか?》
「途方に暮れてます…」

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